平昌五輪の閉会式に、対韓強硬派であり労働党中央委員会副委員長の金英哲(キム・ヨンチョル)氏が北朝鮮から韓国に派遣されることで、今大きな話題となっています。
韓国にとって金英哲氏とは、天安沈没事件やDMZ地雷事件などの痛ましい事件との関連が強い人物として韓国では悪い印象を持っている人が多く、今回の訪韓についても賛否両論ハッキリと別れているようです。
そんな金英哲氏とは一体どんな人物なのでしょうか?経歴についてまとめてみました。
また、金英哲氏が平昌五輪に今回派遣されることになった目的や北朝鮮の狙い、そして今回の金英哲氏の韓国訪問に関する韓国国民の反応についてまとめてみました。
金英哲とは?経歴や北朝鮮での役割について
金英哲(キム・ヨンチョル)氏は北朝鮮、両江道出身です。
出典:http://open.pss.go.kr/picture/view/?no=210
1946年生まれの現在71歳。
職業は政治家・軍人で、現在、朝鮮労働党中央委員会副委員長などを務めています。
学歴・経歴
金日成軍事総合大学を卒業し、朝鮮人民軍に入隊。
1989年、人民武力部副局長に就任。対韓政策に従事。
2009年、朝鮮民主主義人民共和国国防委員会政策室長、そして朝鮮人民軍偵察総局の初代総局長に就任。
2010年、天安沈没事件、および延坪島砲撃を主導。
出典:Republic of Korea Armed Forces, CC BY-SA 2.0
天安沈没事件では、1200トンの韓国海軍哨戒艇が爆発により沈没した事件で、乗員104のうち40人が亡くなり、6人が行方不明、58人が救助された。
後ほど、アメリカ、イギリス、スウェーデン、韓国が合同調査した結果、北朝鮮の魚雷によって沈没させられたと発表された。
ただ、いまだに疑問点も多く、現在も調査中である。
2011年、韓国の農協銀行(日本のJAバンクのようなもの)をハッキングし、韓国国内全般にサイバー攻撃を仕掛ける。
2013年、北朝鮮の弾道ミサイル発射や核実験に対する世界的な対北朝鮮制裁に反発し、金英哲氏がテレビ放送でそれまでの休戦協定の白紙化を宣言、各国に派遣されていた北朝鮮の大使を呼び戻す。
2014年、韓国と北朝鮮が板門店で南北軍事接触代表として参加。
ただし、天安沈没事件については何も言及されることはなかった。
2015年、金英哲氏がDMZ地雷事件と拡声器放送を主導者したと言われている。
DMZ地雷事件では、韓国と北朝鮮の間の非武装中立地帯(DMZ)で韓国兵2名が地雷の爆発により重症を負った。
また拡声器放送とは、韓国に向けて大型の拡声器を使い北朝鮮の宣伝を流すもので、これは韓国側も北朝鮮に向けて行っており、両国の宣伝合戦となっている。
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同年の末、北朝鮮労働党内で韓国とより友好的な関係を提唱するた金養建氏がいたものの、金養建氏は交通事故で亡くなった。
北朝鮮の発表では交通事故となっているが、アメリカの調査によると、金英哲氏ら強硬派によって仕組まれたものだと言われている。
2016年、金英哲氏が北朝鮮労働党中央委員会での書記と党統一戦線部長を務め、北朝鮮の党内での序列が12位となった。
同年、韓国大統領官邸「青瓦台」のホームページをサイバー攻撃。
国務委員会の委員に選出されるも、自身の権力や影響力を拡張しようとした結果、高圧的態度であるなどの理由で、約1カ月間革命化教育を受けた。
この革命化教育では、「流刑」として地方の農場に送られ、思想教育の一環として労働をさせられたと言われている。
その後、現職に復帰。
このように、金英哲氏は長年、対韓政策を担当する軍人・政治家として活躍して来ており、特に党内での対韓友好派を粛清してまで対韓強硬政策を遂行した人物だと言われています。
また、1980年代末から何度も南北高位級会談で代表として参加、何度も南北会談で話し合いをしておきながら、その一方では韓国に対して様々な武力的攻撃を仕掛けるなど、その二重の姿に韓国国民からの不信感は相当高いようです。
北朝鮮内にも、韓国と友好的な路線で関係を結ぼうとする人物(金養建氏)がいたということも驚きでしたが、東アジアの安定や平和を考えると、そういった人物が亡くなってしまい、強硬派が主導権を握り続けているとは、何とも残念に感じます。
続いて、金英哲氏が平昌五輪に派遣された目的や北朝鮮の狙いについて見てみましょう。
金英哲が平昌五輪に派遣された目的や北朝鮮の狙いは?
今回、金英哲(キム・ヨンチョル)氏が平昌五輪に派遣されることになった目的や北朝鮮の狙いについて、日本でも様々な見解が聞かれています。
韓国国内での北朝鮮に詳しい人物の話や個人的な見解をまとめてみると、北朝鮮の狙いは主に以下の4つだと思われます。
1)韓国に仲間割れをさせる
金英哲氏が韓国を訪問することになれば、韓国内で大きな反発があるということは北朝鮮も当然わかっていることです。
わかっていながら、何故わざわざ国民の感情を逆なでするような人物である金英哲氏を派遣するかというと、それはまさに韓国国内での反発を狙っているからだと言えるでしょう。
韓国国内は、親北派と反北派に分かれています。
更に、今の文在寅政権はもともと親北派であり、更に先日の金与正氏の「微笑み外交」によって、現在は南北融和モードになっています。
そのため、文在寅大統領が北朝鮮に対して強く出ることができないことを、北朝鮮はわかっていると言えます。
というのも、文在寅氏は南北とは対話で解決して行きたいという思いがあり、また、韓国国内の離散家族問題などの解決を願っています。
そのため、たとえ国民の反発が大きかろうと、文在寅氏は金英哲氏の訪韓を断ることは出来ないと北朝鮮は踏んでいるわけです。
結果、韓国国内で親北派と反北派の対立は深まり、更に政府と国民の間の溝も広がり、国内はバラバラになります。
更に、韓国が北朝鮮と友好的なムードになっているのを好ましく思っていないアメリカの存在もあり、韓国とアメリカの溝も広がることなります。
世界から受けている経済制裁を何とか緩めたいと考えている北朝鮮にとっては、唯一の「逃げ道」が韓国をうまく抱き込むことだと考えていると言えるでしょう。
2)飴とムチ
先日の金与正氏による「微笑み外交」は、いわば「飴」でした。
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北朝鮮との友好ムードが高まり、このまま上手く話し合いで行けるのではないか、と感じ始めた人も少なくありません。
ですが、北朝鮮は甘い飴の面だけを持っているのではなく、「ムチ」も持っているということを、対韓強硬派である金英哲氏を派遣することによって、改めて韓国に印象付けたいという狙いがあるのではないでしょうか。
「飴とムチ」を巧みに使い分けることによって、心理的に韓国を上手く操ろうとしているように感じられます。
3)表と裏の二重駆け引きにより、予測不可能な北朝鮮
また、上の「飴とムチ」とも関係しているのが、友好的な面と強硬的な面の二重の姿を持ち合わせていることにより、韓国にとって、北朝鮮は予測不可能な国となります。
このような二重の策略は北朝鮮が得意としているもので、世界で外交関係において巧みに使っています。
そのため、北朝鮮は自分たちの意図を通しやすくなりますし、友好的な態度を装いながらも自分たちの怖さや手ごわさを見せつけ、自分たちが上であることを暗に示そうとしていると言えるようです。
それによって、物事を自分たちに有利なように進める狙いがあると言えそうです。
4)高官級会談と窮地の打開
韓国と北朝鮮の南北高官級会談は、そう頻繁にあるものではありません。
経済制裁が苦しい北朝鮮としては、この機会に何とか韓国と話をつけ、少しでも今の窮地を打開したいという狙いがあるように思えます。
以上の4つが、今回、北朝鮮が再び高官を韓国に派遣する目的や狙いだと考えられるのではないでしょうか。
では、韓国では悪名高い北朝鮮の金英哲氏ですが、金英哲氏が韓国を訪問することに関して、韓国国民の反応はどのようになっているのでしょうか?
金英哲の訪韓に対する韓国国民の反応
平昌五輪の開会式にあわせて北朝鮮から派遣されたのは、金正恩(キム・ジョンウン)氏の妹であり、北朝鮮での事実上のナンバー2であると言われている金与正(キム・ヨジョン)氏、そして北朝鮮の高官であり憲法上のナンバー2である90歳の金永南(キム・ヨンナム)氏でした。
金日正(キム・イルソン)一家の家系で韓国を訪れたのは、今回の金与正氏が初めてのことであり、歴史的な出来事として大きな注目を集めていました。
二人は韓国の大統領、文在寅(ムン・ジェイン)氏と会合を重ね、「微笑み外交」などと報じられながら、南北融和ムードが高まって来ていました。
そのため、既に北朝鮮から高官が派遣され、かなりの友好的な話し合いも済んでいたため、もうこれ以上は北朝鮮から高官が派遣されて来ることはないだろうとの見方が韓国では一般的でした。
それが今回、平昌五輪の閉会式に合わせ、新たに高官が派遣されるだけでなく、これまでに天安沈没事件やDMZ地雷事件を主導したと言われている対韓強硬派の金英哲氏が送られてくることで、かなりの反発を生んでいます。
保守派の人々の反対も強く、また、天安沈没事件で被害に遭った遺族も反対デモをするなど、韓国国内は大きく揺れています。
上の北朝鮮の目的や狙いのところでも触れたように、このように韓国国内が分裂することは、まさに北朝鮮の狙い通りだと言えます。
あくまで友好や話し合いを重視する韓国の文在寅大統領と、したたかな北朝鮮との関係は、北朝鮮の狙い通り、予測不可能だと言えそうです。
まとめ
平昌五輪の閉会式に北朝鮮から派遣され参加する、金英哲氏について、金英哲氏とは誰なのか、金英哲氏が平昌五輪に参加する目的や北朝鮮の狙い、そして今回の金英哲氏の韓国訪問に関する韓国国民の反応についてまとめてみました。